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 メーカーはダイアトーン。  全ては思い出の彼方に。


 この女性の大きな鼻筋、そして手にしたタバコ、昔はタバコが自由に吸えた。いい時代だった。

 この女性の貧乳ではあってもどこか貴婦人的な仕草、そして手袋、スピーカーの上に置かれた酒のボトル。

 なんとなくわくわくさせるような、参加したくなるような雰囲気、そんなものがある。


 この広告にはそういう魅力はある。



 だが、ここで、後世の我々がこの広告から一番に感じるべき点は違うものかもしれない。


 それは、こんなデカイいスピーカーが、昭和のどこにこんな暮らしにあったかということだ。

 今ならこんなスピーカーでさえ持っているという人は少ないだろう。
 女性の股座ぐらいまでは高さがある。

 近所迷惑でしょうがないだろう。
 それに、聞ける耳は二つしかないのだ。


 ミニコンサートや何かのイベントホール、寺で念仏でも流すぐらいしか想像はつくまい。


 そして「今晩、ベースがくすぐったい」とは。なんたることか。

 夜にこんなのを民家から流すというのなら通報モノではないか、と。


 知らなければそう思うのは無理もない。
 昭和当時の若者の文化であった。



 昭和の時代には、比較的裕福な者がこうして家に友人たちを呼び、大きな音量でダンスを楽しむということが行われた。

 別に深夜に及んだ乱痴気騒ぎだったわけではない。いつも僅かの時間だった。

 男女が音楽を聴いてダンスしようと集まった目的は、もちろん男女間の親睦、つきあいを深めるというストレートなものだった。
 テニスのように猥らな欲望を隠していたというわけでもない。


 友人たちを自分の家に呼び、酒でもてなして、ダンスに興じたのだ。

 それが「ベースが・・・」というくだりに結びつく。


  もちろん、こんな洒落たドレスでの参加などはなかったろうが、大きなスピーカーの前で踊れば音の衝撃波が嫌でもカラダに響く。
 女性というのは音に弱いものだ。


 そうしてわずか一時間かそこら、すぐに近所や親から怒鳴られ、そうなればこれ幸いとばかりに解散する。

 そうして目をつけていた娘とそれぞれがどこかへシケこむ・・・という算段。




 ちゃんと注意してくれる大人がいた。

 そうして彼らの集まる目的はちゃんとあった。

 一度怒鳴れば彼らはすぐに引っ込んだ。だからトラブルになりようがなかった。

 近所や親はやれやれ、いつものことだと諦めている。


 いつまでも踊っていたり、騒音を引っ込めない連中がいたとしたら、なかなか口説けることもできていない間抜けな男どもが集まっているということ。

 段取りが悪くてどうしようもない連中はいる。それは今でも同じだ。

 この後、次第に若者の騒音などと問題になったりしたのは、だんだんと男たちに間抜けトンマが増え、女子を簡単に口説き落とせなくなったということがあるのかも知れない。




 昭和の時代のことだ。

 そしてここには一番の条件がある。

 すなわち、この当時にはディスコやクラブなどなかったのだ。
 やがてディスコブームとともにこんな大型スピーカーは売られなくなってゆく。


 これより以前には「ゴーゴーブーム」というのがあった。だがそれはゴーゴー喫茶でのことだった。

 その頃は若者には金がなかった。

 このスピーカーが売られるようになった頃には、金はあってもディスコはなかったw。


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